アバシリより

網走ぱうろです。音楽、SF、NBA、その他日々の出来事 お仕事のご依頼はabashiri.paul@gmail.comまで。お知らせ用Twitter@abashiripaul

王者の資質

 この世界には時として「王」と呼ばれる者が現れます。もちろんそれは王政の国を治める存在ではなく、呼称としての「王」のことです。NBAではレブロン・ジェームズ選手が「キング」という愛称で長年他のプレイヤーから畏れられています。

 彼は高校生の頃から注目をされていて、卒業と同時にNBAに入団しました。いつから「キング」と呼ばれていたか定かではないですが、私が見始めた2008年頃にはすでにその呼び名が定着していたと記憶しています。彼は当時まだ23歳でしたし、一度もNBAチャンピオンになっていませんでした。

 それでも「キング」と呼ばれていたのです。

 まだ何も手にしていない者に対してその言葉は皮肉に捉えられるかもしれません。

しかしそう呼ばずにはいられない人は間違いなく存在します。では「王の資質」とは何か、それはその人が持つ「風格」だと思います。

 さあ本題に入ります。

 2018年の今年、日本の音楽界に「王の資質」を持った男が登場しました。

彼の名は「高岩遼」。

日本音楽界の「王」に成り得る男です。

 登場したといっても正確に言えば彼はすでに界隈では知られている存在でした。現在「SANABAGUN.」や「THE THROTTLE」といった気概溢れるバンドでフロントマンを務めています。私は直接面識が無いため推測でしかないのですが、そこでの彼は仲間たちに囲まれて、どちらかといえば「兄貴」的な存在のように見えました。余談ですが私が以前所属していたジャズバンドが渋谷で路上ライブをしていた時に、いつもより全然人が立ち止まらない日がありました。その後近くで「SANABAGUN.」が同じく路上でライブをしていたことを知り悔しく思ったことがありました。

 そんな高岩くんが「兄貴」から「王」へと変貌を遂げようとしています。彼は10月17日についにソロデビューを果たすのです。

www.youtube.com

 ただ歩いているだけでこの迫力は、まさに「王の風格」を感じさせますね。そして特筆すべきは彼の歌声でしょう。フランク・シナトラを敬愛しているのも納得な彼の歌声、私は晩年のデビッド・ボウイを彷彿とさせるなとも思いました。そしてバックで世界水準のサウンドをプロデュースしているのは若きクリエイター集団「Tokyo Recordings」に所属している「Yaffle」こと「小島裕規」です。

 彼は以前「そよ風が知らぬ間に桶屋に届いた話」で紹介をした私の学生時代の友人です。先ほどの予告をご視聴した方なら分かると思いますが、友人だからという贔屓目を全く取り払ってもその評価は変わりません。「世界水準のサウンド」です。

 さらに録音ではビッグバンドも参加しています。今時フルバン(ビッグバンドジャズを構成する全楽器が揃っていること)編成なのも特異な点ですが、その上メンバーも第一線で活躍している若手ジャズミュージシャン達で構成されています。

 それだけの猛者達を高岩くんはその歌声と風格で"従えて"いるのです。

12月12日には渋谷クラブクアトロにてアルバム「10」発売記念ライブをするそうです。クアトロにビッグバンドというのがいまいち想像できません。私もお邪魔する予定なのですが今から楽しみです。

 あと一つ、高岩くんを含めた参加ミュージシャン、ディレクター、プロデューサー全員が20代というところもチェックしておきたいポイントですね。同年代でここまでのものを作り上げたというのは素直に脱帽です。

 レブロン・ジェームズはその後3度のNBAチャンピオンに輝き名実共に「キング」の座に君臨しています。高岩くんは果たしてその玉座にたどり着くことが出来るのでしょうか。きっと彼自身はそんな心配一切せずに、そこへと続く階段を悠然と登っていることでしょう。

 

 ちなみに10月17日は私が所属するバンドKoochewsenの1stFullアルバム「sweet illusion」も配信がスタートします。我々なりに現代へとアプローチを仕掛けた意欲作となっているので是非チェックしておいてくださいな。

バイバイスマホリック

 みなさんこんばんは。少しやわらいできましたが、まだまだ暑い日が続きますね。油断せず水分補給は欠かさないようにしたいです。

 

 まずはライブのお知らせです。明日18日に大塚Hearts Nextで私が所属するバンド、Koochewsenがライブをします。元たまの知久寿焼さんとのツーマンです。私はこのライブが決まってから今の今まで、明日のことを考えるとどうにかなってしまいそうでした。自分の演奏が終わるまでいかに正気を保つかをずっと考えています。18時開場18時半開演です。O.A.の教育番組さんもいいバンドらしいので楽しみです。

 

 先日、デジタルデバイスブルーライトに関するネガティブなニュースを読みました。今までもその危険性を指摘する識者の方は多くいましたが、今回はメカニズムをより詳しく解明したチームが現れたそうです。専門的なことは分からないですが、網膜にある「レチナール」という目の機能に欠かせない細胞が、ブルーライトを浴びると目にとって有毒な化学分子へと変化してしまうそうです。原因が分かると対策も取れるということで、現在目薬などに応用するための研究が進んでいるみたいです。

 ブルーライトは、デジタルデバイスに囲まれた私達にとって切っても切れない問題です。特にスマートフォンは「携帯電話」の域をとうに越え、記憶の一部を補完する脳の外付けハードディスクになりつつあり、それ無しでは生活が出来ない人達も少なくないと思います。

 かくいう私もつい最近までいわゆる「スマホ依存症」でした。ちょっとした時間でも、一人でいるときは欠かさずスマートフォンを見ていました。酷いときは危険も承知で歩きながら見ていることもありました。

 

スマートフォンで「何か」を見ていないと落ち着かなかったのです。

 

 その内容はといえば、そう頻繁に更新されることのない情報サイトや、何度も見たはずの動画だったりで、私は完全に不毛な時間を費やしていたのです。それでも何かを見ていないともったいないと感じていました。

 幸いなことにその状況から脱することができたのですが、一人では決して果たせなかったと思います。それだけ「スマートフォンの引力」は強かったのです。

 私はスマートフォンの画面から離れて、色々なものを取り戻しました。いつもの帰り道のちょっとした変化に気づくようになり、朝の日差しの眩しさや夕焼けの美しさを、まだこんな気持ちで感じられたのかと驚いたほどです。空気を感じる力が戻ってきたのです。

世界は見るだけではなく感じるものであることを思い出しました。

 スマートフォンによる弊害は身体的な問題だけではなく、精神にも多大な影響を及ぼします。もちろん便利な機械であることは間違いありませんし、適切な使い方をすれば私達の生活をより豊かにしてくれるのは間違いありません。現に私もこの文章は、スマートフォンを通して書いています。ただそこに世界を囚われてしまうのはあまりにも勿体無いのではないでしょうか。自分はそんなはずはないと思っている方も、試しにスマートフォンを置いて10分でもいいので外に出てみてください。気だるい夏の暑さが、もしかしたら少し心地よく感じるようになるかもしれません。

あなたは(わたしは)だあれ?

 みなさん、こんにちは。今日も今日とて暑いですね。40度を超える地域もあるとか、本気で気をつけて過ごしましょう。

 SF作家、神林長平さんの「絞首台の黙示録」を読みました。三年前に発表された作品で、現在完結している神林作品の中では最新作となっています。購入してからしばらく眠らせていたのですが、ふと思い立って読み始めたらあれよあれよと言う間に読み終わってしまいました。

 神林さんはその長い作家人生を通して、「意識」、「時間」、「言語」といったテーマを様々な視点で物語に落とし込んできた方なのですが、今作は今まで広い視野で描いてきたこれらのテーマを、一点集中して押し通した力強い作品になっていました。

 物語の始まりはある死刑囚の刑が執行されるシーンから始まります。その後場面は変わり、作家業をしている主人公「伊郷工」が、疎遠になっていた父が行方不明だということで実家に帰ったところ、その晩に自分も「伊郷工」だと名乗る男が、その家にやってきます。ここからこの話は「相手が何者か」、「自分が何者か」が登場人物ですら定かではない状態で淡々と進んでいくのです。段々と会話の迷路に迷い込んでいく感覚を、ぜひ読んで体感して欲しいところです。

  今作には神林さんの代表作である「戦闘妖精・雪風」に登場する戦術戦闘電子偵察機雪風」のような戦闘機や、「完璧な涙」で未来を破壊するために生み出された戦車も出てきません。舞台も未来や別の世界でもない、現代の日本です。だからこそこの物語は、主題がストレートに伝わるように感じます。物語の唯一と言っていいギミックが明かされる瞬間は、細く細く、研ぎ澄まされた針を頭の中に差し込まれたような衝撃でした。

 神林さんは現在SFマガジンで新作「先をゆくもの達」を連載中です。私は書籍化されたものを一気に読みたい質なのでまだ未読なのですが、神林さんがこの極点から次どこへ向かっているのか...早く読みたいものです。

その先の向こう側をゆく人

 みなさん、こんにちは。暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか?

 御年84歳、60年のキャリアを誇り、今もなお唯一無二の世界を創造し続けるジャズ・テナーサックスプレイヤー、ウェイン・ショーターの新譜「エマノン」が9月に発売するという報せを聞いて1週間ほど経ちました。ジョン・コルトレーン、そしてその系譜に名を連ねるジャズマン好きの私にとって、ショーターもまた大好きなプレイヤーの一人なので、この新譜は非常に楽しみなのです。

 私がショーターを初めて見た時、急遽行くことになったため途中から入場し、席も後ろの方だったのにも関わらず、その衝撃で長らく放心状態になってしまったのを今でもよく覚えています。その翌年、満を持して良い席を確保した私は、一緒に行くはずだった友人が仕事の都合で間に合わない緊急事態でそわそわしていましたが、開演と同時にそんな状況であることもすっかり忘れて、1人で大号泣してしまいました。

 2000年代から続いている現在のショーター・カルテットには世界最高峰のプレイヤーが揃っています。ベーシスト、ジョン・パティトゥッチが骨太なサウンドで支え、ピアニストのダニーロ・ペレスが力強いタッチで世界観を構築し、ドラマーのブライアン・ブレイドが持ち前の遊び心たっぷりのドラミングでダイナミクスをつけたところで、ショーターが一吹きで全部持っていくのがこのカルテットの特徴です。と言ってしまうと少し強引な気もしますが、それほどショーターのサックスは魅力的なのです。特に近年の彼の音は魔力に近いものを感じます。ショーターはジャズ界きってのSF好きとして知られていて、これまでの作品にもその要素が多く含まれていましたが、今のショーターは音そのものがSFじみてきました。怪物ですね。ちなみに9月発売する新譜にはショーターが原作を担当したグラフィック・ノベルなるものが収録されているそうで、こちらも楽しみです。

 ショーターは1950年末にアート・ブレイキーに見出され、ジャズ・メッセンジャーズに加入してから、60年代マイルスバンド、そしてウェザー・リポートと常に第一線のバンドで活躍をしてきました。それでもなお、彼の宇宙は広がり続けているのです。この世界にはまれに、年を重ね、肉体のピークを過ぎ、常人なら収束していくであろう時期にさらに新しい地平に辿り着く人がいます。ショーターはまさにその1人だと私は思っています。私はたまに、自分の演奏や自分の歩んできた道を振り返り、ふと不安になる時があります。そんな時はショーターを聴いて、ちっぽけな悩みを吹き飛ばしてもらっています。

 ジャズをあまり聴いたことがない人でも、SFが好きな人、得たいが知れないけどすごいものを聴きたい人、是非ウェイン・ショーターを一度聴いてみてください。もしかしたら今まで見ることのなかった景色が見えてくるかもしれません。

君はYuta Watanabeを知っているか?

 みなさん、お久しぶりです。突然ですが、いま日本バスケット界がにわかに盛り上がっているのをご存じでしょうか?

 サムライブルーことサッカー日本代表の大躍進に沸いた2018年夏。その裏で密かに行われていたバスケットボールワールドカップアジア予選にて、日本代表が強豪オーストラリア代表を破る快挙を達成したのです。しかもオーストラリアのチームにはNBAで活躍するソン・メイカーとマシュー・デラベドバの両選手が参加していました。

 この試合でも大活躍をしてチームの勝利に貢献した八村塁という選手がいます。彼はアメリカの大学1部リーグ(Division Ⅰ)の強豪校であるゴンザガ大学でエースを任されていて、来年のNBAドラフト予想でも上位に名を連ねています。昨年楽天NBAの放送権を買収し、ゴールデンステイト・ウォーリアーズのスポンサーになったのも、三木谷さんが彼のNBA入りを想定してのことだったのではないかと言われています。

 

「日本人がNBAの舞台でプレイする」

 

これは今までファンタジーに近い夢物語でした。2メートルを越える巨人達が、人間離れしたスピードとパワーでところ狭しとコートを駆け回るのです。「この人は小柄なのにすごいな~」なんて見てた人が、調べたら190cmだったりする世界です。

 かつてこのファンタジーに切り込んだのが田臥勇太選手でした。田臥選手は14年前に、NBAのコートに立った初めての日本人として多くのメディアに取り上げられ、日本国内でも話題になりました。173cmというNBAにおいてはとても小柄な選手でしたが、持ち前のスピードを活かしてパスを回し、シュートを決める姿は今見ても胸が熱くなります。しかし田臥選手は一ヶ月でチームを解雇されてしまいます。彼が所属していたフェニックス・サンズというチームには後に殿堂入りを果たすことになるMVPプレイヤーのスティーブ・ナッシュがスターターとして、ブラジルのスピードスター、リアンドロ・バルボサという選手がその控えとして、同じポジションにいました。つまり田臥選手は、控えの控えポジション争いに敗れてしまったのです。

 

17分7得点3アシスト

 

それが田臥選手がNBAに残した爪痕でした。彼は能代工業高校時代にインターハイ、国体、ウィンターカップという高校バスケット三大大会全てで三連覇を達成しました。これを成し遂げたのは後にも先にもこの時代の能代工業だけです。田臥勇太選手は間違いなく日本バスケット史上トップクラスの選手でした。

 それから10年の時を経て、2014年に富樫勇樹選手がNBAに挑戦しました。彼は田臥選手よりもさらに小柄で167cmしかありませんでしたが、田臥選手に負けないスピードと視野の広さが認められ、NBAダラス・マーベリックスと契約を果たします。しかしNBAのコートに立つことはなく、Dリーグ(現Gリーグ)という下部リーグのチームへと送られてしまいました。富樫選手はその後怪我をしてしまい日本に帰国、現在は国内リーグでプレイをしています。日本代表でもスターターに選ばれて、先にお話ししたオーストラリア戦でも司令塔として活躍していました。

 田臥選手や富樫選手といった国内で一つも二つも頭が抜けている選手達ですらNBAの壁はとても厚く、日本人がこの領域へ辿り着くのは不可能だと言われてきました。だからこそ八村選手が来年達成するであろう出来事は、日本バスケット史に残る偉業となるはずだったのです。しかしもしかしたら、来年を待たずしてNBAのコートに立つ日本人選手を見ることが出来るかもしれません。日本国民がワールドカップに沸いた2018年夏、その裏で密かに歴史的勝利を果たしたバスケットボール日本代表選手達、さらにその裏で、NBAに挑戦していた一人の選手がいました。

 

君はYuta Watanabeを知っているか?

 

NBAの分厚い壁を打ち破るかもしれない若き戦士、渡邊雄太選手が先日NBAメンフィス・グリズリーズというチームとの2年契約を勝ち取りました。

 渡邊選手がグリズリーズと契約した内容は「2WAY契約」という去年から採用されたもので、基本はGリーグの下部組織でプレイすることになるのですが、年間で45日間グリズリーズの一員としてチームに参加できるのです。

 私が渡邊選手の名前を初めて目にしたのは4年前、彼がアメリカのジョージ・ワシントン大学に入学したという記事でした。ジョージ・ワシントン大学はDivision Ⅰに所属する大学でしたが、八村選手が後に入学するゴンザガ大学に比べると少しランクが落ちる中堅大学でした。正直に話をすると、私はその頃渡邊選手にあまり注目をしていませんでした。漠然と「単身でアメリカに渡って若いのにしっかりしてるなぁ」くらいに思っていたのです。

 その後も彼の記事はたまに見かけました。「格上のチームに勝利した」

「チームの主力になった」

「相手チームのエースを試合を通して守りきった」

「一試合で20得点を記録した」

「チームのエースに任命された」

その内容は少しずつ、でも着実にステップアップしていきました。

 そして今年、渡邊選手は大学を卒業してNBAのドラフトにエントリーしました。残念ながらそこでは指名がなかったのですが、ある記者が、実力がありながら選ばれなかった選手の一人に渡邊選手を挙げていたのです。

 ドラフトで指名されなかった渡邊選手は、次にサマーリーグに挑みます。サマーリーグNBAの若手選手や、ドラフトで指名された選手と、チームとの契約を目指す選手達が参加する毎夏恒例の催しで、渡邊選手のようにドラフト当落線上にいた選手にとっては絶好のアピールチャンスになります。

 渡邊選手の一番の持ち味は「ディフェンス」です。2mを超えるNBA水準のサイズに加えて、彼は戦術を理解し、相手のオフェンスを読むことができる高いバスケットボールIQを備えています。ブルックリン・ネッツというチームの一員としてサマーリーグに参加した渡邊選手は、コーチーの戦術を忠実に遂行し、ドラフト上位指名選手を相手にタイトなディフェンスを披露して、自分の存在価値を存分に証明しました。その結果、控えからの出場ながらチームトップに近いプレイタイムを与えられ、最後の2試合ではスターターに抜擢されました。そしてそこでの活躍が認められた渡邊選手は、ついにメンフィス・グリズリーズからの契約をもぎ取ったのです。

 渡邊選手が、今までNBAに挑戦してきた日本人選手達よりも活躍することを期待してしまう人は、決して少なくないはずです。というのも渡邊選手のスタイルが、現代バスケットボールにフィットする確率が高いからです。

 最近バスケットボールで使われる用語の一つに「3&D」という言葉があります。これはオフェンスではスリーポイント(バスケットではある一定の距離からシュートを決めると、3点が加算されます。ちなみに普通のシュートは2点です。)シュートを専門とし、ディフェンスでは相手のスコアラーとマッチアップする職人的ポジションの選手を指します。渡邊選手のディフェンス力は、NBAで活躍する若手選手達にも通用するレベルだということはサマーリーグで証明されましたし、スリーポイントシュートの確率も決して悪くありません。まだ安定感に欠ける部分はありますが、サマーリーグでも6本中4本のスリーポイントを決めた試合もありました(NBAでは成功率が4割を超えたら優秀なスリーポイントシューターとして認識されます)。

 さらに近年の上位チームはオールスイッチディフェンスという、従来より柔軟かつチーム全体でディフェンスをするスタイルを採用しているチームが増えてきているので、自分よりスピードのある小柄な選手から、パワーのある大柄の選手まで守れる渡邊選手は、この戦術にも順応出来るのではないかと言われています。

 渡邊選手がこれから歩む道は、まだまだ険しいことには変わりありません。グリズリーズには同じポジションで彼と同等以上の能力を持っている選手が多くいます。堅守で知られているチームでもあるので、ディフェンス力が高い選手も多くいます。きっと渡邊選手は、チームに加わることができる45日間の、さらに限られた時間でしか直接アピールすることが出来ないでしょう。しかし彼は、アメリカに留学したその時から、常に試され続けてきました。そしてその度に乗り越えてきたのです。そう、だからなのかもしれません。私は彼に期待せずにはいられないのです。この夏私は、これから彼が進む道をしかと見届けようと、勝手ながらに思いました。

テイク・オフ・アゲイン

 みなさんこんにちは。今年もゆるゆるとやっていきますのでたまには覗いてみてください。まずはお知らせなのですが私が所属しているバンド、Koochewsenが配信シングル「ヴィーナスの恋人/深海魚のマーチ」を発売します。2月2日、itunesOTOTOYにて、価格は500円です。過去最高の仕上がりです。チェックよろしくお願いします。それでは今回は久しぶりにNBAのお話です。

 

 ダンクシュートって、かっこいいですよね。バスケットボールをやったことがある人なら誰もが一度はやってみたいと願うもので、私も高校生の頃に椅子を台にしてチャレンジした思い出があります。「同じ2点だぴょん」なんて声が聞こえてきそうですが、ゲームの流れを変えたり、チームの士気を上げるためにもダンクシュートは欠かせないプレーなのです。

 日本で1番有名なNBAプレイヤーといえばマイケル・ジョーダンかと思われますが、彼はダンカーとしても素晴らしい選手でした。他にもダンクコンテストジョーダンと熾烈な争いをしたドミニク・ウィルキンスや170センチダンカー、スパッド・ウェブ、ゴールを幾度も破壊した桁違いの威力を持つ、パワー系筆頭シャキール・オニール、名司令塔ゲイリー・ペイトンの相方で、これまたパワフルなダンクで会場を沸かせたショーン・ケンプなど当時も多彩なダンカーがリーグを盛り上げていました。

 2000年代に入るとそれまでの選手たちが持っていた技術、パワー、スピードを全て兼ね備えた史上最高とも謳われるビンス・カーターが現れます。ダンクコンテストで披露した360ウィンドミル(回転しながら腕を風車のように回すダンク)は今でも語り継がれるほどのインパクトを残しました。その後も「スーパーマン」と呼ばれたビッグマン、ドワイト・ハワードや、そのハワードを175センチながら飛び越えてダンクを決め、コンテスト優勝を果たしたネイト・ロビンソン、現役最速を誇るジョン・ウォールなど挙げればキリがない選手たちが力強いダンクを披露してきました。そう、ダンクシュートは「力」の象徴なのです。

 カーターを史上最高だと先ほど言いましたが、これは好みによって挙げる選手は人それぞれかと思います。しかし力とはまた違う、史上最も美しいダンカーは誰かと言われたら…「Dr.J」ことジュリアス・アービング以外にいないでしょう。一昨年に来日してテレビにも出演していたのでご覧になった方はいるかもしれません。

 現役選手の多くが尊敬して止まないと語るアービングは、NBAの暗黒時代である70年代に頭角を現し(当時は後にNBAに統合されるABAというリーグに所属していました)、ラリー・バード率いるボストン・セルティックスマジック・ジョンソン率いるロサンゼルス・レイカーズの名門チーム達がリーグを席巻した80年代、そのほとんどの年をこの2チームが制するなか、一矢報いた唯一のチームであるフィラデルフィア・セブンティーシクサーズを、当代一のセンター、モーゼス・マローンとともに優勝に導きました。しなやかに伸びた彼の手足から繰り出されるダンクは正に芸術そのもので、その跳躍は「飛ぶ」というより「浮き上がる」という表現の方がしっくりくる程の滑らかさでした。

 時は流れて2014年、とある青年がドラフトで指名されたチームに難色を示し、頭を抱えてひと目も憚らず「F××K」と口走り話題になりました。前置きが長くなりましたが彼こそが今回の主役、新世代最高峰ダンクシューターのザック・ラビーン君です。

 大胆不敵な態度やニヒルな笑顔とは裏腹に、彼のダンクはアービングを彷彿とさせる美しさでした。それまでの数年間、コートに高級車を持ち出したり、シャキール・オニールを玉座に座らせてその上からダンクをするなど、演出過多で煮詰まっていたダンクコンテストでしたが、彼はルーキーながら己の身体一つで往年の盛り上がりを復活させたのです。2年目には同期のパワーダンカー、アーロン・ゴードンとの一騎打ちを勝ち抜き、ダンクコンテスト連覇を達成、この二人の戦いはジョーダンとドミニクによる名勝負の再来だと高く評価されました。

 ラビーンの跳躍は先程述べた通り、アービングに近いものなのですが、軽やかさは彼の方が勝る印象で、「浮き上がる」を通り越して空中を「歩く」ようでした。漫画アイシールド21をお読みになった方は帝黒アレキサンダーズの本庄鷹を思い出していただければわかりやすいかと思います。さらに持ち前のボディバランスを活かして、ダンクだけではなくアウトサイドからのシュートも年々上達し、苦手だったディフェンスも少しずつ改善していきました。しかし昨冬、彼は左膝の靭帯を断裂する大怪我を負ってしまいます。膝の靭帯断裂は跳躍に留まらず、バスケット選手としては致命的な怪我であることは想像に難しくないと思いますが、彼は負傷後に「必ずコートに戻る」とファンに誓ったのです。

 手術を無事に成功してからの1年間、彼はリハビリとウェイトトレーニングに励みます。その間にチームの事情でトレードされ、上位を狙える補強を行ったチームから再建真っ只中の下位チームへと移籍することになってしまいましたが、それでも腐ることなく地道なリハビリを続けたラビーンは、先日ついにNBAのコートへと帰ってきたのです。

 ウェイトトレーニングの成果もあって一回り身体が大きくなったラビーンは、ダンクこそなかったものの要所で得点を決めて、制限された出場時間のなか、しっかりとチームの勝利に貢献しました。

 試合後に「リラックスしてやれた」と語るラビーンでしたが、試合中の彼の表情は真剣そのもので、ドラフトで見せた尊大さはもうそこにはありません。彼が以前のような美しいダンクシュートを出来るかどうかはまだわかりませんが、再起不能と思われた怪我を乗り越えて優勝リングを手にした選手もいます。彼のこれからのキャリアが素晴らしいものになることを、私は遠い日本の地から密かに応援していこうと思います。

名前についての二、三のこと

 みなさん、お久しぶりです。いくつか思うところがあってしばらくの間お休みをしていましたが、ぼちぼち再開しようと思います。その間にも何人かの方から応援のメールをいただきました。ありがとうございます。とても嬉しく全て拝読しましたが、よほどのことがない限りお返事は遠慮させていただこうと思います。ぜひライブに来ていただいて、そこでお話ししましょう。遠方の方はそこまで行けるように頑張りますのでしばしお待ちを…

 最初に断っておきたいのですが、今回のお話はあくまで私個人の意見なので、文句があるなら全て私が受け止めます。くれぐれもよろしくお願いします。

 「名前(呼称と言い換えてもいいでしょう)」をつけられた時、与えられるのは由来であって、その人達にとってはまだ、ただ区別されるだけの記号にすぎないのではないでしょうか。そこから長い年月をかけて意味を足していき、受け手側は愛着を覚える。こうして名前は定着していくんだと思います。なので「名前」は、取るに足らないものであると同時に、非常に重いものなのです。それを背負い続けるのも、捨てるのも勇気がいるんですよね。
 私の話をすると「網走」というの名は大学生のジャズ研時代に与えられたものです。もちろんこれは北海道の地名からとられたものですが、意味するところはまるで違います。この名前には私の人生を変えた美しき吹き溜まり、そこで関わった素晴らしきろくでなし達との日々で培ったものが含まれているのです。私はそれを勝手に背負っているつもりなのですが、囚われているように見える人もいるでしょう。「名前」とはつまりそういうものなのではないでしょうか。
 ちなみに「パウロ」という名前には私にとっての「正義」が、親からもらった名前には人生そのものが刻まれています。生まれたての名前に違和感があるのは当然です。そこから時間をかけて新たに意味が加わるのです。それを一緒に創っていきましょう。