アバシリより

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その先の向こう側をゆく人

 みなさん、こんにちは。暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか?

 御年84歳、60年のキャリアを誇り、今もなお唯一無二の世界を創造し続けるジャズ・テナーサックスプレイヤー、ウェイン・ショーターの新譜「エマノン」が9月に発売するという報せを聞いて1週間ほど経ちました。ジョン・コルトレーン、そしてその系譜に名を連ねるジャズマン好きの私にとって、ショーターもまた大好きなプレイヤーの一人なので、この新譜は非常に楽しみなのです。

 私がショーターを初めて見た時、急遽行くことになったため途中から入場し、席も後ろの方だったのにも関わらず、その衝撃で長らく放心状態になってしまったのを今でもよく覚えています。その翌年、満を持して良い席を確保した私は、一緒に行くはずだった友人が仕事の都合で間に合わない緊急事態でそわそわしていましたが、開演と同時にそんな状況であることもすっかり忘れて、1人で大号泣してしまいました。

 2000年代から続いている現在のショーター・カルテットには世界最高峰のプレイヤーが揃っています。ベーシスト、ジョン・パティトゥッチが骨太なサウンドで支え、ピアニストのダニーロ・ペレスが力強いタッチで世界観を構築し、ドラマーのブライアン・ブレイドが持ち前の遊び心たっぷりのドラミングでダイナミクスをつけたところで、ショーターが一吹きで全部持っていくのがこのカルテットの特徴です。と言ってしまうと少し強引な気もしますが、それほどショーターのサックスは魅力的なのです。特に近年の彼の音は魔力に近いものを感じます。ショーターはジャズ界きってのSF好きとして知られていて、これまでの作品にもその要素が多く含まれていましたが、今のショーターは音そのものがSFじみてきました。怪物ですね。ちなみに9月発売する新譜にはショーターが原作を担当したグラフィック・ノベルなるものが収録されているそうで、こちらも楽しみです。

 ショーターは1950年末にアート・ブレイキーに見出され、ジャズ・メッセンジャーズに加入してから、60年代マイルスバンド、そしてウェザー・リポートと常に第一線のバンドで活躍をしてきました。それでもなお、彼の宇宙は広がり続けているのです。この世界にはまれに、年を重ね、肉体のピークを過ぎ、常人なら収束していくであろう時期にさらに新しい地平に辿り着く人がいます。ショーターはまさにその1人だと私は思っています。私はたまに、自分の演奏や自分の歩んできた道を振り返り、ふと不安になる時があります。そんな時はショーターを聴いて、ちっぽけな悩みを吹き飛ばしてもらっています。

 ジャズをあまり聴いたことがない人でも、SFが好きな人、得たいが知れないけどすごいものを聴きたい人、是非ウェイン・ショーターを一度聴いてみてください。もしかしたら今まで見ることのなかった景色が見えてくるかもしれません。