アバシリより

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あなたは(わたしは)だあれ?

 みなさん、こんにちは。今日も今日とて暑いですね。40度を超える地域もあるとか、本気で気をつけて過ごしましょう。

 SF作家、神林長平さんの「絞首台の黙示録」を読みました。三年前に発表された作品で、現在完結している神林作品の中では最新作となっています。購入してからしばらく眠らせていたのですが、ふと思い立って読み始めたらあれよあれよと言う間に読み終わってしまいました。

 神林さんはその長い作家人生を通して、「意識」、「時間」、「言語」といったテーマを様々な視点で物語に落とし込んできた方なのですが、今作は今まで広い視野で描いてきたこれらのテーマを、一点集中して押し通した力強い作品になっていました。

 物語の始まりはある死刑囚の刑が執行されるシーンから始まります。その後場面は変わり、作家業をしている主人公「伊郷工」が、疎遠になっていた父が行方不明だということで実家に帰ったところ、その晩に自分も「伊郷工」だと名乗る男が、その家にやってきます。ここからこの話は「相手が何者か」、「自分が何者か」が登場人物ですら定かではない状態で淡々と進んでいくのです。段々と会話の迷路に迷い込んでいく感覚を、ぜひ読んで体感して欲しいところです。

  今作には神林さんの代表作である「戦闘妖精・雪風」に登場する戦術戦闘電子偵察機雪風」のような戦闘機や、「完璧な涙」で未来を破壊するために生み出された戦車も出てきません。舞台も未来や別の世界でもない、現代の日本です。だからこそこの物語は、主題がストレートに伝わるように感じます。物語の唯一と言っていいギミックが明かされる瞬間は、細く細く、研ぎ澄まされた針を頭の中に差し込まれたような衝撃でした。

 神林さんは現在SFマガジンで新作「先をゆくもの達」を連載中です。私は書籍化されたものを一気に読みたい質なのでまだ未読なのですが、神林さんがこの極点から次どこへ向かっているのか...早く読みたいものです。